LaboRatory and Researches

研究室が目指しているもの

私たちの研究室では、「様々なシステムにおいて、そのモデル化から制御系設計までを見通し良く行える理論を実現する」ことを目指して研究を行っています。近年、システムは複雑・多様化してきており、さらに、それらの解析や制御系設計にはディジタル機器の使用が前提となってきております。そのため、従来よりも広範なシステムを扱える柔軟なモデルとそれに基づく解析や制御系設計、特に、与えられた対象・環境・機器の基で、最適な性能を得るためのディジタル機器を意識した手法の開発が望まれています。このような統合的な視野から、理論だけでなく実機による応用までを見据え、先駆的・独創的な学術研究の実施を目指しています。

私たちの研究室では、「特定の装置の制御を扱う」という視点よりは、「できるだけ普遍的な制御法を考案しそれを実験装置で検証する」という視点を基本としております。この視点には「本質的に適切な制御入力はどのような情報を含んでいるのか」という制御という基盤技術に欠かせないテーマが根底にあります。

現在取り組んでいる研究テーマを下記に紹介します。ただし、研究テーマはこれらに限らず、相談しながら1人1テーマを個々の希望にあわせて決定しています。

システムの次数や制御の基本的枠組み

最近の主な発表論文

  1. Design of a Controller for Plants Undergoing Order Changes,“ T. Kubota, N. Hori, T. Nguyen-Van, and S. Kawai, 2020.

  2. “Interpretation of Kitamori’s Partial-Model-Matching Method in a Descriptor-Form Expression,“ S. Kawai and N. Hori, 2020.

  3. “Effects of Changes in the Leading Coefficient of Fifth-Order Manabe’s Polynomial,” H. Morita and N. Hori, 2019.

アナログ・ディジタル領域におけるシステムの極・零の対応の解明

システムの周波数応答と時間応答は2つの視点からシステムの情報を反映したものです。連続時間領域では、システムの基本的な情報が極と零点によって表現されています。そして、離散時間化後のディジタルシステムでは、離散時間化手法とサンプリング周波数の選択によって、極と零点は離散時間領域の複素平面上で再配置され、システムの応答もそれに応じて変化します。極零点とそれに応じたシステムの応答特性を理解し、その得られた極と零点の視点に基づく、アナログ制御系の調整と優れた性能のディジタル制御系設計の研究を行っております。

低次元化の解析

次数の異なる対象を扱う制御系の設計

制御系の設計には一般的に制御対象のモデルが必要ですが、その多くは固定次数で表現されます。そのため、モデルの低次元化などにより次数が変化する場合は新たな制御系の設計や解析が必要になります。そこで、伝達関数の分母多項式が非モニックで最高次の係数が変化する次数の異なる制御対象に対して制御系の設計を行うことで、次数変化を許容した制御器の枠組みを目指した研究を行っています。

システムと制御系の離散時間化/ディジタル制御

最近の主な発表論文

  1. “A Discrete-Time State Estimation for Nonlinear Systems With Noises,“ T. Nguyen-Van, 2020.

  2. “Generalized Discretization of Continuous-Time Distributions,“ S. Kawai and N. Hori, 2020.

  3. “On Computation of Fractional-Order Differentiations,“ S. Ebihara and N. Hori, 2020.

デルタ形式を用いることで連続時間系と離散時間系の相違だけでなく整合性にも着目し、「アナログ制御系のより良いディジタル化」や「アナログ感覚で設計できるディジタル制御」を実現できる理論の構築を目的として研究を行っています。種々の広範なシステムをモデル化しそれらをディジタル機器で適切に扱えるための基礎理論やアナログ制御系の安定性を始めとする様々な特性を保存したディジタル制御系の設計理論などについて、理論的研究を行い、シミュレーションと実験によりその有効性を実証しています。

非線形システムの離散時間化

非整数階微積分や偏微分方程式、微分代数方程式で表されるシステムの離散時間化

時間t以外の変数を多数含むとき、システムは偏微分方程式で表すことができます。偏微分方程式を離散時間/空間化するためには、初期条件と境界条件を設定し、解析解を導出する必要があります。微分代数方程式では、次数変化を表現可能としたシステムモデルとしてDescriptor Systemを研究対象としています。両者とも、サンプリング周期によって精度が左右されない離散手法の導出が目的です。また、偏微分方程式で表すシステムを次数変化に対応するようにDescriptor形式で表し、尚且つその離散化を実現するということも一つの課題です。

PIM法とその改良

PIM法は理論上、いかなるNon-Pathologicalなサンプル周期でも安定性を保証するアナログ制御系のプラント入力特性に注目したディジタル制御系設計法です。この設計法によって得られるディジタル制御系は、サンプル周期を小さくすると基のアナログ制御系と同様な特性を実現します。しかし実機にPIM法をそのまま適用しても、望みの性質を持つディジタルコントローラを設計することができない事例も一部存在するため、PIM法の改良も逐一進めております。現在では、積分制御を考慮したIA-PIM法やダブルループの制御構造としたMLPIM法、そして可変ゲインを用いた適応制御と組み合わせる事によって、より優れた性能のディジタル制御器の開発を行っております。

ディジタル制御系の設計

新電力システムの構築

最近の主な発表論文

  1. “State Observer-based Current Sensor-less Hysteresis Current Control for Stand-alone Inverters,” T. Nguyen-Van and K. Tanaka, 2019.

  2. “Digital Adaptive Hysteresis Current Control for Multi-Functional Inverters,” T. Nguyen-Van, R. Abe, K. Tanaka, 2018.

  3. “MPPT and SPPT Control for PV-Connected Inverters Using Digital Adaptive Hysteresis Current Control,” T. Nguyen-Van, R. Abe, K. Tanaka, 2018.

近年、風力発電、太陽光発電など再生可能エネルギーの導入が推奨されていますが、現存する電力系統は、余剰電力発生や周波数調整力不足の問題があるため再生可能エネルギーの導入に限界があります。そこで再生可能エネルギーの接続限界を高めるために、旧来の巨大な電力系統を複数の小さなセルに細分化し、ICTを活かしたデジタルグリッドという新電力システムの構築や電力制御装置の開発をします。下記のような研究が含まれます。

分散型電源用スマートインバータの制御

デジタルグリッドシステム構築

需要予測

ステッピングモータ

最近の主な発表論文

  1. Digital Control of a Stepping Motor for Eliminating Rotation Speed Fluctuations Using Adaptive Gains,“ D. Isobe, N. Hori, S. Kawai, K. Yagi, T. Nguyen-Van, Electronics, vol. 10(11), 1335, 2021.

  2. "Disturbance Observer-based Nonlinear State Feedback Control for Microstepping Mode of Stepper Motors," N. Kinjo, S. Kawai, T. Nguyen-Van, Proc. SICE Annual Conference 2022, regular paper, pp. 152-157, Kumamoto, 2022.

  3. "A Digital Speed Profile Generator for Stepper Motor," D. Isobe, S. Kawai, T. Nguyen-Van, IEEE 40th International Conference on Consumer Electronics, pp. 1-6, Las Vegas, 2022.

駆動回路(ドライバ)のディジタル再設計

ステッピングモータのアナログドライバのディジタル再設計を目的とした研究です。ディジタル化にはPIM (Plant Input Mapping) 法を用い、 従来法を用いた場合よりも安価にアナログドライバと同等の制御性能を実現することに成功しています。今後は、ディジタルドライバにさらなる機能を加えることを目指しています。

多機能ディジタルドライバ開発

ステッピングモータのドライバを最初からディジタル領域で設計し、アナログドライバには無かった機能を実装しようという研究です。特に実用上の欠点である同期外れについて、位置センサを使わずに対応できる機能を実現させることが目標になります。

電源回路

最近の主な発表論文

  1. “Design of Dual-Rate PIM-Disturbance Regulators for a DC-DC Switching Converter,” N. Nishinaga, N. Hori and R. Xinyue, 2019.

  2. “PIM-Discretization of Analog PWM Control for DC-DC Switching Converters,” N. Nishinaga and N. Hori, 2017.

  3. “Digital Regulation of an LLC Resonant Converter Undergoing Dynamic Load Transients –Model-Based PIM Design and Simulation,” Y. Isobe, N. Hori, and K. Someya, 2016.

LLC共振電源回路のディジタル制御

PFM (Pulse Frequency Modulation) 信号を用いて制御を行うLLC共振電源回路のディジタル制御についての研究です。アナログ制御器をPIM (Plant Input Mapping) 法を用いて離散化し、従来手法よりも遅いサンプル周期でもアナログ制御と同等の外乱抑制性能を持つディジタル制御系の設計を目標にしています。

研究室の教育・指導の目標と基本方針

私たちの研究室が養成を目指す人材像は、「柔軟な発想を確かな知識と科学的分析能力、経験に基づいて考え続けられる思考の体力を持った人材」です。なぜならば,考え続けられる能力が,学問においても社会においても,複雑・多様に変化し続ける将来への,柔軟な対応や未知の問題の解決,知的創造には必要であると考えるからです.そして、考え続けられる能力を培うためには,自ら考える力が肝要と感じています.そこで、私たちの研究室は自主自律を旨とし、皆さんが自由に時間を使える学生というこの時期を尊重したいと考えています。また、研究室における教育・指導の最も良い点は少数指導にあると考えています。この利点を最大に活かし、個々人の嗜好や希望に合わせ話し合いながら具体的な目標設定をし指導を行っていきます。